京都地方裁判所舞鶴支部 昭和31年(ワ)34号 判決 1958年6月17日
原告 深田太市
補助参加人 商工組合中央金庫
被告 株式会社 間組
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告との間に生じたものは原告の負担とし、補助参加人との間に生じたものは補助参加人の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は「別紙<省略>物件目録記載の物件に対する昭和二九年一〇月三一日譲渡債権と共に移転する旨を原因とする京都地方法務局舞鶴支局受付昭和三〇年三月一日第三三八号工場抵当法第三条による根抵当権移転登記(別紙物件目録の物件中(一)に付ては九番附記三号、(二)に付ては五番附記三号、(三)に付ては七番附記三号)抹消登記手続をせよ。右根抵当権により担保せられる債権額は金千万円なることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、
一、原告は昭和二七年一二月一九日訴外株式会社太陽商社(以下単に太陽商社と略称する)と債権極度額金五千万円、存続期間昭和二八年一二月三一日遅延利息日歩二〇銭の定で別紙目録記載の物件に順位一番の根抵当権設定契約を締結し、翌二〇日工場抵当法第三条による登記手続を経由した。
二、右根抵当権については太陽商社から訴外太陽林業協同組合(以下単に太陽林協と略称する)に対し昭和二八年六月九日債権と共に譲渡する旨を原因とする前記法務局(支局)受付同年七月一〇日第一〇二六号工場抵当法第三条による根抵当権移転登記(別紙物件目録の物件(一)に付ては九番附記一号、(二)に付ては五番附記一号、(三)に付ては七番附記一号)がなされたが、右根抵当権については太陽林協から更らに被告に対し前記請求趣旨記載のとおり移転登記手続がなされた。
三、元来原告が太陽商社に対し本件根抵当権を設定したのは昭和二七年一二月一五日その所有に係る石川県石川郡吉野谷村字中宮所在の山林立木を売却するに当り約束手形により金五千万円の前渡金の融通を受けたためであるが、太陽商社は昭和二八年六月二四日倒産した。そこで原告は同日太陽商社と合意の上右山林売買契約を解除し、双方の債権債務を整理したところ、結局原告から太陽商社に対し金二六、七四二、九四九円を返済する義務あることが判明した。
四、而して右債務の支払方法につき同年七月上旬原告と太陽商社木材部長兼太陽林協理事長森厚との間に次の(イ)(ロ)のとおり合意が成立した。即ち、
(イ)当時当事者間で有する各債権債務を相殺し、原告は太陽商社に対し金二六、七四二、九四九円の支払義務あることを認めて内金千万円を可及的速に支払い、太陽商社は原告に対するその余の債権を放棄する。
(ロ)原告が右債務を担保するため太陽商社に設定して居る根抵当権は太陽商社の債権者から実行を迫られることを避けるため、太陽商社から前項の債権と共に太陽林協に譲渡手続をする。但しこの根抵当権付債権は右組合から他に譲渡することを禁止する。
五、而して太陽林協は右根抵当権附債権を同月一〇日自己名義に移転登記した後、前記約旨に違反してこれを先づ商工組合中央金庫に質入し、更らに同二九年一〇月三一日被告に譲渡した。然し太陽林協は被告に本件根抵当権附債権を譲渡するに際し、原告との間に譲渡禁止の特約あることを告げてこれを拒絶したに拘わらず被告はこれを聞き容れなかつたので太陽林協は已むなく被告に譲渡したものである。従つて被告は悪意であるから右譲受を以つて原告に対抗し得ないものであるに拘わらず被告は昭和三〇年一〇月頃から原告に対し右一部免除前の債権金二六、七四二、九四九円の支払を矢釜しく請求するので原告の息子訴外深田太一郎がこの折衝に当るうち被告の代理人訴外山田半蔵及び大竹謙二は同人を強いて原告の氏名を冒書せしめて作成した無効の誓約書に違反したとの理由で御庁に対し本件不動産競売の申立をなした。然し太陽林協の被告に対する本件根抵当権附債権の譲渡は前記のとおり原告に対抗し得ないものであるから右根抵当権移転登記の抹消手続を求めると共に本件根抵当権によつて担保せられている債権額は前記の如く金千万円であることの確認を求めるものである。
と述べ、
立証として、甲第一号ないし第一五号証を提出し、証人森厚、日野親範、窪田章、大竹謙二、深田太一郎の各証言及び原告本人尋問の結果を援用し乙第一号証中昭和二七年一二月二〇日付契約書の成立を認め他は不知と述べ、乙第二号証及び第四号証の一ないし四の成立を認め乙第三号証の中原告名下の印影及確定日付を認めその余を否認し、乙第五号証の一ないし三は名刺であることを認め乙第六号証は不知と述べた。
補助参加訴訟代理人は原告を補助するため参加の申出を為し、その理由として、
一、原告は前記事実摘示欄第一項記載のとおり太陽商社に対して別紙物件目録記載の物件につき根抵当権を設定登記したが、太陽商社は昭和二八年六月九日太陽林協に対し右根抵当権を金二六、七四二、九四九円の被担保債権と共に譲渡しその登記(昭和二八年七月一〇日受付第一〇二六号)をした。次に右根抵当権譲受人たる太陽林協は参加人に対して同人と参加人間の昭和二八年三月二五日付東京法務局所属公証人大沢光吉作成第三三九号極度額手形割引契約証書に基く極度額金三千万円の極度取引に依り同人が参加人に対して負担する債務の担保として昭和二八年七月二四日右根抵当権を金二六、七四二、九四九円の被担保債権と共に質入してこれを原告に通知し、且つ前記法務局支局昭和二八年七月二七日受付第一〇八四号工場抵当法第三条による根抵当権附債権質入登記(別紙物件目録の物件(一)に付ては九番附記二号、(二)に付ては五番附記二号、(三)に付ては七番附記二号)をした。而して太陽林協は右質入に際して参加人に対し参加人の承諾なくして質入債権竝にその附随の根抵当権につき譲渡その他の処分をしないことを特約したに拘らず昭和二九年一〇月三一日被告に対し右根抵当権を被担保債権と共に譲渡しその登記手続を為した。
二、参加人は太陽林協との前記極度取引契約に基き同人に対し昭和三二年九月一六日現在元金七、三五四、九五四円、利息竝に損害金二、四三三、五五三円この元利合計金九、七八八、五〇七円の債権を有する。即ち参加人として本件根抵当権附債権につき現在右金額の債権を被担保債権とする根質権を有するものである。
三、被告の本件根抵当権付債権の譲受は次の理由によつて無効である。
(一)蓋し、債権を目的として質権を設定した場合には質権設定者はその目的たる債権につき、しかも、担保不可分の原則より見てのの全部につき、法律上譲渡その他の処分禁止の拘束を受けるものと解すべく、若し、これに違反して債権に質権を設定したのち質権設定者がその目的たる債権を他に譲渡したときはその譲渡は無効であると解すべきである。而して太陽林協が本件根抵当権附債権を被告に譲渡したのは前述の如く同人がこれを参加人に質入した後であるから右譲渡は無効である。
(二)太陽林協が昭和二八年七月二四日参加人に対し本件根抵当権附債権を質入するに当り参加人の承諾なしにこれを譲渡その他の処分をしないことを特約していることは前記のとおりであるが、被告は同人と参加人間に右のような特約のあることを充分承知していながら敢て本件根抵当権付債権の譲渡を受けたものである。
かような場合には民法第四六六条第二項を準用ないし類推適用してその譲渡を無効と解すべきである。
四、太陽林協は前記の如く参加人に対し本件根抵当権附債権を質入するに当り「参加人の承諾なしに本件根抵当権附債権を他に譲渡その他の処分をしない」旨特約している。即ち参加人は同人に対して本件根抵当権附債権につき処分禁止の不作為債権を有するものである。このような特約をしたのは、担保権設定者が担保物を他に譲渡し又は後順位の担保権を設定するときは債権又は担保権の行使に際し製肘を受ける不利益がある。たとえば担保権実行の時期の決定に当り、後順位の権利者がないときは、彼による不測の担保権実行はないから参加人の立場から債務者の状態、担保提供者の状態、殊に継続的取引関係たる極度取引の場合には今後の取引についての見込、その他あらゆる事情を考慮して担保権実行の時期を決定し得る。然るに後順位の権利者があるときは参加人は好まざるに拘らず彼の担保権実行により自己の担保権を喪失することになる。
よつて参加人は原告が本訴に於て勝訴することに付き利益を有するからこれを補助するため参加するものである。
と述べた。
被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、
一、原告主張の第一、二項の事実はこれを認める。第三項の事実中原告が太陽商社に対し金二六、七四二、九四九円の債務を負担していたとの事実はこれを認めるが、その余の事実は不知である。第四項の事実中太陽商社が原告に対する債権を本件根抵当権と共に太陽林協に譲渡したことは認める。但し譲渡の日は昭和二八年六月九日である。太陽商社又は太陽林協が原告に対し金千万円を除きその余の債権を放棄したとの事実及び本件根抵当権附債権につき譲渡禁止の特約が為されたとの事実は否認する。その余の事実は不知である。第四項の事実中太陽林協が自己名義に本件根抵当権附債権の移転登記をし、これを商工組合中央金庫に質入れし更に被告に譲渡し夫々その旨の登記をした事実及び被告が原告に対し右譲受債権の支払請求をした事実は認めるがその余の事実はこれを否認する。
二、原告代理人たる訴外深田太一郎は昭和三〇年一〇月二五日本件根抵当権附債権二六、七四二、九四九円の支払義務あることを認めて同年一二月末日迄その支払の猶予を乞い且つ翌一一月末内金二〇万円を弁済している。従つて仮りに原告主張の債権放棄があつたとしてもそれは被告に対抗し得べきものではない。よつて原告の請求は失当である。
と述べ、
参加人の参加につき異議を述べ、参加の理由につき次のとおり反駁した。
一、債権質の効力は担保不可分の原則によつて質入債権の全部に及び質権設定者は自らその債権の取立、免除、相殺、更改等債権の消滅又は減少を招来する行為をなすことができず、かかる質権者の権利を害するような行為をしても債権の消滅又は減少を以つて質権者に対抗し得ないこと勿論であるが、質入債権は依然として質権設定者に帰属し質権設定者は該債権の債権者としての権利を有するのであるから質権設定者は質権者の権利を害しない範囲において質入債権を処分し得るものと解すべく従つて質入債権を第三者に譲渡することは有効というべきである。従つて本件根抵当権附債権につき参加人に質入した後に被告がこれを譲受けたこと自体何等無効を来すいわれがない。
二、民法第四六六条第二項の所謂譲渡禁止の特約に関する規定は債権創造に際しての当事者の意思を尊重して債権本来の譲渡性を制限すると共に他方取引の安全との調和を図らんとする例外規定である。従つて債権の創造に関係のない第三者が債権者と譲渡禁止を約するもこれがために債権本来の譲渡性に何等の影響なく、これに民法第四六六条第二項を準用乃至類推適用する余地はない。従つて太陽林協が参加人との譲渡禁止の特約に反し本件根抵当権附債権を被告に譲渡したからとてこれが無効を来すいわれがない。然も被告は太陽林協と参加人との間に本件根抵当権附債権の譲渡を禁止する旨の特約条項のあることを全く知らないで、これが譲渡を受けたものであるに於ておやである。
三、本件根抵当権附債権の質権設定者たる太陽林協は同人と表裏一体となつて経済活動をしていた訴外東京木材貿易株式会社の事実上の破産状態と共に自らもその活動能力を喪失して居り、又一方第三債務者たる原告は太陽林協からの厳重な督促に拘らず次々と虚構の事実を申向け支払をなさず、剰え本件抵当物件の上に訴外農林漁業金融公庫、株式会社関西相互銀行及び北海道森林組合連合会等の為に順次根抵当権を設定して多額の債務を背負い且個人会社と思われる訴外深田木材株式会社の為に賃借権を設定して抵当物の価値を減少せしめる等種々の手段を構じて専らその日を糊塗するのに汲々たる有様であつたのである。斯様な事情の下に於ては参加人としては最早質権設定者たる訴外組合と取引関係を継続すべき何等の必要も利益も無く、又抵当物件の上に設定された前記後順位の根抵当権者等は何時でもその抵当権の実行を為し得る状況の下にあるのであるから、参加人の所謂担保権実行の自由等は逸早く失われていたのである。斯様な状況の下に於ては質権者たる参加人は本件訴訟の成否に利害の関係がなく、従つて参加は不適法である。
被告訴訟代理人は立証として乙第一号ないし第三号証、第四号証の一ないし四、第五号証の一ないし三及び第六号証を提出し、証人森厚、尾崎克幸、小松重喜、木原健吉の各証言を援用し甲第四号証第八号証第九号証(但赤字部分は不知)第一一号証第一五号証の成立を認めそのその余の甲号証は不知と述べた。
理由
先づ参加の当否に付き考察する。参加人が本件根抵当権附債権につきその主張の如き経過によりその主張のような内容の根質権を有することは本件根抵当権によつて担保せられる債権額を除き当事者間に争なく参加人の本件根質権によつて担保せられる債権額が昭和三二年九月一六日現在元金七、三五四、九五四円、利息竝に損害金二、四三三、五五三円、この元利合計金九、七八八、五〇七円なることは被告に於て明に争わないからこれを自白したものとみなす。而して本件根抵当権によつて担保せられる金額が遅延損害金を除き金二六、七四二、九四九円であることは後記認定のとおりである。而して証人森厚、同尾崎克幸、同木原健吉の各証言を綜合すれば、被告が太陽林協より本件根抵当権附債権の譲渡を受けたのは被告が太陽林協に対し融資していた金一四、九四四、六七六円(昭和二九年一〇月二〇日現在)の債権の弁済方法として為されたものであることが認められる。而して債権を質入れした場合には質権設定者は自ら債権を取立てる権能を有しないものと解すべきであるが、抵当権附債権を質入れした場合に於て質権によつて担保せられる債権額が抵当権によつて担保せられる金額よりも少いときは質権設定者たる抵当権者は質権者に弁済した余剰から自己の債権の弁済を受け得るが故に競売の申立を為し得ると解するを相当とする。蓋しこの場合には質権者は右競売手続に利害関係人として参加し得るのであり質権者の権利を害する虞は少しもないからである。(大判昭和七年八月二九日民集一一巻一七二九頁参照)然し質権者は質権設定者により抵当権を実行せられるときは恰も一番抵当権者が二番抵当権者により抵当権を実行せられた結果不測の時に有利な抵当権を喪失するような不利益があるので金融業者は往々担保設定者と後順位担保権の設定その他担保物の処分の禁止を特約することは日常見るところであり、本件もその例外ではない(弁論の全趣旨により成立の認められる甲第五号証参照)。よつて参加人は本訴の成否に利害の関係を有するものであり原告を補助するために参加することは適法というべきである。成立に付き争のない乙第四号証の一ないし三によれば被告主張のように第三債務者(根抵当権設定者)たる原告は本件抵当物件に訴外農林漁業金融公庫、同株式会社関西相互銀行及び同北海道森林組合連合会等の為に順次後順位の根抵当権を設定していることが認められ、従つて彼等により抵当権を実行せられるときは参加人もその主張の根質権の基礎たる本件根抵当権を喪失することになるが、このこと自体は参加人が本訴に参加することの妨げとならないと解する。よつてこの点に関する被告の主張は採用しない。
進んで本案について考察するに、原告主張の事実欄摘示の第一、二項の事実は当事者間に争がない。而して、太陽商社と原告との本件極度取引に基く債権即ち本件根抵当権によつて担保せられる債権額が遅くとも昭和二八年七月一〇に金二六、七四二、九四九円に達したことは当事者間に争がなく、成立に争のない乙第四号証の一ないし三及び当裁判所に於て弁論の全趣旨により原本の存在及び成立を認める乙第一号証中の昭和二八年六月九日付太陽商社と太陽林協との間の債権竝に根抵当権譲渡契約書によれば右根抵当権附債権は同年六月九日付で太陽商社から太陽林協に譲渡せられていることが認められるが、右譲渡に際し本件根抵当権の被担保債権額を原告と太陽商社木材部長兼太陽林協理事長森厚との間に金千万円に減額する旨の合意が成立したとの原告主張に添う甲第三号証の記載竝に証人日野親範、同深田太一郎の各証言及び原告の供述は成立につき争のない甲第一五号証弁論の全趣旨により成立の認められる甲第五号証の各記載及び証人森厚の証言に比照してこれを信用できないし、他に原告の債務が千万円に減額せられたことを認めるに足る証拠はない。又右譲渡に際し太陽林協に於て原告に対し爾後本件根抵当権附債権を他に譲渡しないことを確約したとの原告の主張についてはこれに添う甲第三号証の記載竝に証人日野親範、同深田太一郎の各証言及び原告の供述はその後幾許もなくして太陽林協が本件根抵当権附債権を参加人に質入れした事実及び証人森厚の証言に比照して信用できない。尤も証人森厚の証言には多少瞬昧な点があるので、惟うに、太陽林協が本件根抵当権附債権を参加人に質入れした後太陽林協の理事長たる森厚に於て原告の追求に遭い原告に対し本件根抵当権附債権を爾後他に譲渡しないとの意思表示をしたものとしても、成立に争のない甲第一一号証証人森厚(一部)同尾崎克幸、同小松重喜、同木原健吉の各証言を綜合すれば、被告が本件根抵当権附債権の譲渡を受けることになつたのは太陽林協やその一心同体たる訴外東京木材貿易株式会社が何時でも本件根抵当権附債権を担保に提供するからといつて被告から融資を受けていた関係であつて、愈々太陽林協や右会社が倒産確実とみられるに及んで右譲渡手続をしたのであり、その際被告側に於て始めて本件根抵当権附債権が参加人に質入れされていることを知つたのであり、本件根抵当権附債権そのものが譲渡禁止されていることを知らなかつたことが認められる。甲第三号証(証人日野親範の証言によつてその成立を認める)及び第七号証(証人森厚の証言によつてその成立を認める)の記載中右認定に反する部分及び証人森厚の証言中右認定に反する部分は信用できない。他に右認定を動かすに足る証拠はない。而して成立に争のない乙第二号証によれば太陽林協は本件根抵当権附抵当権を被告に譲渡したことを昭和三〇年三月四日付内容証明郵便で原告に通知したことが認められる本件に於てはその他の争点(但し参加人の主張については後に譲る)に付判断するまでもなく被告は原告に対し本件根抵当権附債権を譲受けたことを以つて対抗し得る理である。
次に参加人の債権質入後質権設定者が右債権を他人に譲渡することは無効であるとの主張について考察する。この点に関する当裁判所の見解は被告訴訟代理人主張の事実欄摘示の主張と全く同一であるから茲にこれを援用する。従つてこの点に関する参加人の主張を排斥する。
次に参加人の民法第四六六条第二項を準用乃至類推適用すべきであるとの主張(事実摘示欄第二項)について考察する。参加人が太陽林協との間にその主張の如き特約をしていることは当裁判所が先に参加の当否について判断した際認定したところである。然し質権者は設定者が右の如き特約に違反したときは設定者との取引を直に停止しその権利を実行し又は設定者に対し損害賠償を求め得る場合があろうが、質権者は質入された債権そのものの譲渡性を剥奪し得ないものと解するを相当とする。従つて参加人主張の民法第四六六条第二項を本件に準用乃至類推適用する余地はない。よつて参加人のこの点の主張も採用しない。
よつて原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条(なお参加に関する部分につき同法第九四条後段)を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 庄田秀麿)